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文豪旧宅散策(文京区)~JAN,2025~

  • 執筆者の写真: 羽場 広樹
    羽場 広樹
  • 1月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月9日


今で言うところの“推し活”になるかもしれませんが、明治の文豪旧宅跡を徘徊してまいりました。100年も経ち故人になればストーカーにはならないでしょう。学生時代は小石川の学生寮に住んでいたので、土地勘は有ります。とはいえ40年近く経っており、街の変化を心配してましたが文京区は案外街並みは変わっておらず、こうした旧跡めぐりを静かに支援しているようで楽しい散歩になりました。夏目漱石は英国留学から帰国後千駄木に住み、一高・東大で教鞭を取りましたがその間小説家として脚光を浴びた『吾輩は猫である』『倫敦塔』を書きました。


同じ町内には高村光雲・光太郎親子がそれぞれ近所に住んでました。光太郎が智恵子と結婚し住んだ旧宅跡には看板が建ち、当時も静かな住宅街の中にあったと思われますが、流石に安達太良山が見える空とは違う空に見えたのでしょう。 

 





千駄木には森鴎外旧宅『観潮楼』跡もあり、文京区が遺品・資料を展示する記念館を2012年に建てました。陶器二三雄設計のオシャレな建物で、鴎外クラスになると文京区も本気を出すなと妙に感心すると共に、昨今何かと世知辛い世の中でこうした後世に何を伝え何を残すのかという事業は重要な仕事だと思いました。鴎外が住んだ明治後半は未だ二階から品川沖の景色が見えたようで、観潮楼と名付けたそうです。 


文京区は所謂“武蔵野台地”の東縁に位置しますが、神田川に向かって南北に幾つか谷が切れ込んでおり、坂が多いです。特に東西に動くと上り下りに翻弄されますが、学生時代は余り苦にならなかった坂道も久しぶりに歩いてみて己の老化を実感した次第です。千駄木から本郷の菊坂を目指す途上、東大農学部の弥生キャンパスが見えますが、この辺りで弥生式土器が発見されました。縄文海進が終わり海面が沖に引いていく中で、先ず住みやすかったのがこの台地だったんでしょう。





徳田秋声は泉鏡花や室生犀星と並び金沢三文豪と呼ばれてますが、他の二人と比べると知名度はいまひとつかもしれません。加賀藩家老横山氏家臣だった父の死により旧制四高を中退し上京、尾崎紅葉に師事し明治~戦前まで活躍した小説家でした。




 


菊坂を下りて春日通りの向かい側に、石川啄木が二階で家族と住んだ喜之床(きのとこ)という床屋があり、今も理髪店をされてます。半世紀前に春日通り拡張の為建て替え、旧宅は愛知県の明治村に移築されたようなのでいつか見に行こうと思います。




 


盛岡中学の2学年上の先輩だった金田一京助は、上京した啄木の面倒を相当見たようです。金銭面だけでなく鴎外が主催する観潮楼での歌会に連れていったり小説家として名が売れるよう尽力したようですが、残念ながら啄木は26歳で早逝しました。




 


金田一京助宅は本郷台地の縁、近所に坪内逍遥宅も有りましたが、そこから鐙坂を下り谷底のような隘路に樋口一葉旧宅跡があります。文京区は高台の邸宅街と低地の長屋街がはっきりしており、特にこの地域は急な坂道と隘路が交錯し、当時の面影が残ってます。一葉が「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」を建て続きに書き、結核で24歳の生涯を終える迄の時間は奇跡の14ヶ月間と呼ばれていますが、陽の当たらない長屋で命を削るが如く創作に没頭したのかと思うと感慨深いです。森鴎外は軍医の位を極めると共に、小説家・文学者としても名声を極めた超人ですが、一葉に『この才能を終わらせてはいけない』と名医を紹介しました。


関口の高級住宅街に佐藤春夫旧宅があります。近くには椿山荘や細川家の永青文庫もあり、周辺環境も文化度は高いです。高校生の頃、萩原朔太郎や中原中也の詩を読んでましたが、予備校で奥井潔先生(英語)が吟じられた佐藤春夫の詩(海辺の恋)に衝撃を受け嵌りました。後日恋の歌の多くは不倫だったと知りぎょっとしましたが、秋刀魚の歌も含め心の奥底に潜む、悲しみの琴線に触れる秀歌が盛りだくさんです。 


大町桂月は晩年十和田湖、奥入瀬に近い蔦温泉で最後を迎えましたが、それまで本拠地は目白台でした。昨年夏同温泉で二泊し、宿の中にある大町桂月資料館で足跡を辿りましたが、只の歌人ではなく、旅人で大酒飲みで好感を持ちました。 






46℃の温泉が直噴する岩盤の上に湯舟と湯屋が建っており、この上なく贅沢な気分になります。今年も行くつもりです。

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